香木の基礎

香木の種類 — 沈香・伽羅・白檀、そして栽培沈香という新しい種類

香木とふつう呼ぶのは、伽羅・沈香・白檀の三つです。ただし、この三つは同じ軸の分類ではありません。木の種類なら沈香と白檀の二系統、名前なら六国・産地名・伽羅といった呼び分け、出自なら野生と栽培。三つの軸に分けて整理し、栽培沈香がどこに入るかを示します。

目次

「香木」と呼ばれるものの範囲

京都の老舗は、香木をこう定義しています。「香木とは広義には、樹木より採れる香料全般のことですが、通常は伽羅・沈香・白檀を指します」(山田松香木店)。日本語で香木と言うときの範囲は、この一文にほぼ尽きています。

先に、検索で混ざりやすい二つを切り分けておきます。園芸で言う「三大香木」は、ジンチョウゲ、クチナシ、キンモクセイという花の香る庭木のことで、ロウバイを加えて「四大香木」と呼ぶこともあります(国立国会図書館 レファレンス協同データベース)。どちらも、焚く香木とは別の言葉です。中南米のパロサントも、まったく別の系統の木で、この記事の範囲には入れません。

ここからは、伽羅・沈香・白檀を、木の種類・名前・出自の三つの軸で分けます。

軸1:木の種類で分ける — 沈香の木と、白檀の木

木として見ると、香木は二系統しかありません。

沈香の木は、ジンチョウゲ科アクイラリア属(Aquilaria)とギリノプス属(Gyrinops)の木です。アクイラリア属には世界に約17種があり、その多くは中国、インド、東南アジアに分布しています(Wang ら 2021)。木そのものが香るのではなく、傷を受けた木が防御反応で木部に沈着させた樹脂を熱すると、香りが立ちます。

白檀の木は、ビャクダン科ビャクダン属の Santalum album です。沈香とは科からして違い、香りの仕組みも逆で、健康な木が年月をかけて心材に溜めた精油が、削っただけで香ります。二つの違いは沈香と白檀の違いの記事に書きました。

では伽羅はどこに入るのか。伽羅は、別の木ではありません。 沈香の木から採れたもののうち、ある性格の香りを持つものに付けられた呼び名です。老舗のメーカーも「沈香の最高級品を伽羅と呼ぶ」と書いています(日本香堂)。ただしこれは、香道でいう六国(後述)という枠組みの中に等級があるという意味ではありません。伽羅という名前が、実際の取引でいちばん高い価格帯と結びついてきた、ということです。木の軸では、伽羅は沈香の中に入ります。

木の軸では二系統、名前の軸では呼び分け、出自の軸では野生と栽培。三つを混ぜると分からなくなります。

軸2:名前で分ける — 六国、産地名、伽羅、奇楠

沈香には、たくさんの名前が付いてきました。どれも「沈香の中の呼び分け」で、木の種類ではありません。

六国は、等級ではなく「木所」です

香道で使われてきた分け方に、六国(りっこく)があります。伽羅(きゃら)、羅国(らこく)、真那賀(まなか)、真南蛮(まなばん)、寸門多羅(すもたら)、佐曽羅(さそら)の六つです。

この六つが何なのかについて、公益財団法人お香の会は「香木の種類のことで、産地などから……六つに分類するもの」としたうえで、「これらの香木の名称を木所(きどころ)といいます」と書いています。つまり六国は、品質の優劣を示す等級ではなく、香木に付けられた名前です。

名前は産地に由来しますが、その産地はいまでは確定していません。老舗の線香メーカーは、伽羅を除く五つの産地を羅国=タイ、真那賀=マラッカ、真南蛮=インド東海岸、寸門多羅=スマトラ、佐曽羅=インドのサッソールと紹介したうえで、「現在では国名や地名などがいろいろ変化していて、実際の正確な産地名などははっきりしていない」と書いています(梅薫堂)。

六国は、産地に由来する木所という名称であり、同時に香りの性格——甘・酸・辛・鹹(かん)・苦の五味——による分け方とも結びついています(山田松香木店)。この二層を分けて読むと、「六国は産地の名前だ」「六国は香りの性格の分類だ」という説明のどちらも、半分だけ当たっていることが分かります。どちらの層も品質の等級表ではありませんが、伽羅の名だけは最上のものと結びついてきました。当店は、栽培品を六国に当てはめていません。六国の枠組みができた時代に流通していたのは野生の香木で、その枠で呼ぶのは正確ではないと考えるためです。「栽培伽羅」の伽羅も、六国の判定ではありません(香りの言葉の記事)。

産地名は、品質を決めません

市場でよく見る「シャム沈香」「タニ沈香」も、名前の軸の呼び分けです。シャム沈香はインドシナ半島産、タニ沈香はインドネシア産、という説明が一般的ですが(梅薫堂)、同じ「タニ」をジャワ沈香の別名として説明する例もあり(香源、2026年8月23日閲覧)、店によって範囲が違います。産地名は業界の慣用であって、規格ではありません。

そして産地名は、値段を決めません。ある老舗の「シャム沈香刻み」は、等級(#900〜#15000)と内容量(3g・20g・100g)の組み合わせで、在庫分で税込1,100円から99,000円まで開きます(高野山大師堂、2026年8月28日閲覧)。1gあたりに直しても、同じ名前の中に約10倍の幅が残ります。名前を見ても、何が届くかは分からないということです。

伽羅と奇楠

伽羅は、沈香の中でも特定の性格の香りを持つものに付けられた、日本の呼び名です。老舗のウェブショップでは、伽羅は「ウェブショップでの取り扱いなし」と書かれていました(松栄堂、2026年8月23日閲覧)。伽羅をウェブでは売らず店頭のみで扱う店もあれば、ウェブで価格を公開している店もあり、扱い方は店によって違います。伽羅と沈香の境目は、沈香と伽羅の違いの記事に書きました。

奇楠(きなん)は、中国や東南アジアの産地で、樹脂の性質をもとに使われている呼び名です。伽羅と奇楠は「最上のものを指す言葉」という点で似ていますが、判定の基準が別で、訳語として置き換えられる関係ではありません(奇楠とは何かの記事)。

軸3:出自で分ける — 野生と、栽培

この記事で新しく置きたいのが、野生か栽培かという出自の軸です。

野生の沈香は、山の中の木が落雷や虫害などで偶然傷つき、誰にも管理されずに何十年もかけて樹脂を溜めたものです。これに対して栽培沈香は、人が植えた木に穴を開けるなどの方法で傷を与え、数年かけて樹脂を沈着させたものです。樹脂をつくるのは、どちらも木自身です。

研究は、結香(けっこう=樹脂が沈着して香るようになること)を促す方法を、切断や穿孔といった物理的な方法、薬剤による化学的な方法、菌の接種などの生物的な方法の三系統に整理しています(Wang ら 2021)。当店の提携農園が行っているのは穿孔(産地の言葉で「打眼(だがん)」)だけで、定植から約4年で穿孔し、穿孔後2〜3年(長いもので4年)で採取しています(結香の記事)。

栽培沈香は、木の種類としては新しくありません。アクイラリア属の木から採れる、同じ沈香です。しかし出自の軸では、野生に対する新しい種類です。野生の奇楠系統と栽培の奇楠系統を、同じ条件で分析した研究があります(Yang ら 2021)。エタノールで抽出できる成分の総量は、栽培46.5%、野生49.9%でした。差がはっきり出たのは、量よりも中身です。セスキテルペン(沈香の香りをつくる成分の一群)には、野生の材からしか検出されない種類がありました。反対に、代表的なクロモン誘導体2種(加熱したときに香りを出す、沈香に特有のもう一つの成分群)は、栽培のほうが含量が高くなっていました。成分の多様性そのものは、野生のほうが大きいという結果でした。成分の上では単純な優劣ではなく、組成の違いとして読むのが正確です。ただ当店の経験では、いまの栽培伽羅と野生の伽羅とでは、香りにはっきりとした隔たりがあります。だから当店は、栽培品を野生の物差しで語らず、「栽培沈香」「栽培伽羅」と、出自が分かる言葉で書いています(栽培伽羅とは)。

なお、この研究の試料は野生7点・栽培22点で、野生側には二つの樹種(A. agallocha と A. sinensis)が含まれ、栽培側は A. sinensis の接ぎ木だけでした。栽培試料は穿孔後約10か月で採取されたもので、穿孔後2〜3年(長いもので4年)置く当店の提携農園の年数とは違います。同じ奇楠系統のクローンで6か月・12か月・24か月を比べた別の研究では、期間が延びるほどセスキテルペン類が増え、クロモン類は減ると報告されているので(Li M ら 2025a)、上の組成の違いの一部は、野生と栽培の違いではなく結香の期間の違いかもしれません。いずれも当店の材の数値を測ったものではありません。

三つの軸を、一つの表に

横にスクロールできます

軸 分け方 入るもの 注意
木の種類 樹種 沈香の木(アクイラリア属・ギリノプス属)/白檀の木(ビャクダン属) 伽羅は別の木ではない。樹種はDNA分析で判別できる
名前 木所(六国) 伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・寸門多羅・佐曽羅 産地由来の名称。等級ではなく、産地も確定していない
名前 産地の慣用名 シャム沈香・タニ沈香など 店によって範囲が違う。値段も品質も決めない
名前 最上を指す言葉 伽羅(日本)/奇楠(産地) 判定基準が別。訳語ではない
出自 野生/栽培 野生の沈香・伽羅/栽培沈香・栽培伽羅 木は同じ。組成が違う。判別が確かめられているのは成分の分析による方法

「見分け方」の限界

「香木 種類 見分け方」で検索すると、木目や色で見分ける方法を書いたページが並びます。研究が示しているのは、それとは別のことです。

木の種類は、DNAで見分けられます。 市場で売られていた数珠、木塊、チップなど8点の製品を、DNAバーコーディングで種のレベルまで同定した研究があります(DNA領域の最良の組み合わせで、種判別の成功率75%。Lee ら 2016)。

野生か栽培かは、香りの成分の分析で判別できるとされます。 2-(2-フェニルエチル)クロモン類のプロファイルを統計的に比べると、野生と栽培を判別できることが報告されています(Li ら 2016)。

裏を返せば、木の種類も出自も、肉眼や嗅覚だけで確実に見分ける方法はない、ということです。見た目の特徴を並べた記事が間違っているわけではありませんが、それは傾向であって、判定ではありません。

実務で確かめられることは、二つの面に分かれます。一つは、栽培品かどうか、産地、実測の重量、加工の工程を、売り手がどこまで開示しているか。もう一つは、届いてから断面、匂い、加熱で何が分かるかです。その手順は沈香の偽物と見分け方の記事に書きました。

見分け方をめぐって、もう一つよくある誤解があります。「沈香=水に沈む木」という説明も多く見かけますが、正倉院の名香の一つである全浅香(ぜんせんこう)は樹脂分が少なく水に浮きます(正倉院展公式サイト)。沈水は樹脂量の目安であって、沈香の定義ではありません(沈水の記事)。

入手の形と、値段の桁

種類の軸とは別に、形の軸があります。塊(木)、割(角割・細割)、刻、粉末(香木の形の記事)。塊は自分で削る人向け、割は聞香(もんこう=銀葉を隔てて香木を温め、小さな一片の香りを聞く、香道の聞き方)に使われる形、刻はそのまま焚くための形、粉末は練香や線香の原料になるほか、炭の上に撒く抹香(焼香)にも使われます(抹香とは何かの記事)。なお当店は、栽培品を聞香には積極的に勧めていません。当店の材は、樹脂の量も値段も、野生の伽羅のように一片ずつ惜しむ必要がなく、当店で試した限り、通常品クラスの材は銀葉ごしの穏やかな熱では雑味が相対的に目立ちやすいためです。樹脂が十分に乗った特撰クラスの材なら、聞香でも楽しめると当店は考えています。聞香用の分割も扱っていません(当店の形は小片・塊材・粉末の三つです)。

写真:塊、割、刻、粉末——沈香の四つの形(準備中)
塊、割、刻、粉末。同じ材でも、形が変わると、削る・聞く・焚く・撒くという使い方が変わります。

値段は、種類と形で桁が変わります。老舗のウェブショップの公開価格(松栄堂、2026年8月24日閲覧、いずれも税込)では、老山白檀の刻が10gで2,750円(275円/g)、沈香の刻が5gで4,400〜7,150円(880〜1,430円/g)でした。野生の伽羅は、刻・割で1gあたり税込26,400〜88,000円でした(山田松香木店・香源の公開価格、2026年8月24日閲覧・当店調べ)。当店の栽培伽羅(定番)は、同じ5gで通常品が1,980円(396円/g)、沈水選別品が3,980円(796円/g)、100gでは通常品が29,800円(298円/g)、沈水選別品が59,800円(598円/g)です(いずれも税込・送料込)。形も量目も出自も違うので、単価をそのまま比べられるものではありません。値段がなぜこれだけ違うかは、沈香の値段の記事に書きました。

輸入には書類が要ります。沈香の木はワシントン条約(CITES)の附属書IIに掲載されていて、栽培品も原則として対象です。禁止ではなく、輸出国の許可書が要り、日本側でも手続きが必要になる場合がある、ということです(ワシントン条約の記事)。

当店が扱っているもの

当店が扱うのは、出自の軸で言う栽培のほうです。木の軸では沈香、名前の軸では奇楠系統の苗から採れる栽培伽羅です(定番・特撰とも)。白檀は扱っていません。奇楠系統というのは接ぎ木の苗の系統のことで、産地で言う奇楠の判定基準を満たすという意味ではありません。伽羅らしい香りを持つ材なので、野生の伽羅と混ざらないよう、出自が分かる「栽培伽羅」と書いています。「栽培伽羅」は作り方を示す言葉で、品質の等級ではなく、同じ呼び名の中にも品質の幅があります。

香木をはじめて買うとき、木の種類よりも先に決めるべきなのは、野生か栽培かだと当店は考えています。そこが決まれば、値段の桁が決まり、形と量が決まります。はじめての方向けの考え方ははじめての香木の記事に、当店の品揃えは定番の香木と特撰にまとめています。

参考文献

よくあるご質問

香木にはどんな種類がありますか?

日本では、香木といえば伽羅・沈香・白檀の三つを指すのがふつうです。木の種類としては、ジンチョウゲ科アクイラリア属などの沈香の木と、ビャクダン科の白檀の木の二系統です。伽羅は別の木ではなく、沈香の中の呼び分けです。これに、野生か栽培かという出自の軸が加わります。

日本の三大香木は?

園芸で「三大香木」と言う場合は、ジンチョウゲ、クチナシ、キンモクセイという花の香る庭木を指します。伽羅・沈香・白檀という焚く香木とは別の言葉です。検索で両方が混ざって出てくるので、どちらの意味かを確かめてください。

六国とは何ですか?

伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・寸門多羅・佐曽羅の六つで、香道で使われてきた香木の名称です。この名称を木所(きどころ)と言います。産地に由来する名前ですが、いまでは正確な産地は確定しておらず、品質の等級を示す言葉でもありません。また、香りの性格による分け方とも結びついています。

香木の種類や、野生か栽培かは見分けられますか?

肉眼や嗅覚だけで確実に見分ける方法はありません。木の種類はDNAの分析で、野生か栽培かは香りの成分の分析で判別できたという研究報告がありますが、どちらも機器による方法です。実務では、売り手がどこまで情報を開示しているかと、届いてから断面・匂い・加熱で確かめられることの両方を見ます。

栽培沈香は香木の種類の一つですか?

木の種類としては沈香と同じアクイラリア属で、新しい樹種ではありません。出自の軸で見たときに、野生に対して栽培という新しい種類になります。人が植えた木に穴を開けるなどして傷を与え、結香させた沈香で、樹脂をつくるのは木自身です。当店が扱うのは、栽培沈香のうち、奇楠系統の苗から採れる栽培伽羅です。

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