香木の基礎

沈香と白檀の違い — 木、香り、使い方、値段

沈香は、傷ついた木が木部に沈着させた樹脂の香りです。白檀は、健康な木が年月をかけて心材に溜めた精油の香りです。木の科が違い、香りのでき方が逆です。白檀は削っただけで香り、沈香は温めてはじめて香ります。成分も、値段の桁も、ワシントン条約(CITES)での扱いも違います。

目次

木が違います

沈香と白檀は、同じ「香木」という言葉で呼ばれていますが、木としては縁が遠い別の植物です。

沈香は、ジンチョウゲ科アクイラリア属(Aquilaria)の木です。ワシントン条約の附属書でも、ジンチョウゲ科(Thymelaeaceae)の項にアクイラリア属とギリノプス属が並んでいます。熱帯から亜熱帯の木で、自分で光合成をして育つ、ふつうの樹木です。

白檀は、ビャクダン科ビャクダン属の Santalum album です。この木には大きな特徴があります。根に吸器(きゅうき)という器官を持ち、他の植物の根に取り付いて水分と養分を吸う半寄生植物です(Zhang ら 2015)。光合成は自分でしますが、一本だけでは育ちにくく、宿主になる木が要ります。

育ち方からして、二つは別の木です。

香りのできる仕組みが、逆向きです

もっと大きな違いは、香りがどこから来るかです。

沈香は、傷の産物です。 アクイラリア属の木は、幹に傷を受けると、防御反応として樹脂を分泌し、傷の周りの木部に沈着させます。この樹脂が沈香の香りのもとです。傷のない健康な木は、沈香にはなりません。野生では落雷や虫害などの偶然の傷から、数十年から百年を超える年月をかけて樹脂が溜まります(当店が産地で見聞きしてきた範囲の話です)。栽培では、人が幹に穴を開け、数年かけて木に樹脂を溜めさせます(結香の記事)。

白檀は、健康な木の心材そのものです。 ビャクダン属の木は、年月をかけて幹の中心部(心材)に精油を溜めます。傷は要りません。ただし、時間はかかります。植林地で、十年に満たない若木のうちに香りのある心材ができる例はごくわずかだと報告されています(Liu ら 2022)。自然に形成された心材を水蒸気蒸留すると、3〜8%の精油が取れます(同)。

同じ香木でも、沈香は傷を受けた木が樹脂を沈着させたもの、白檀は健康な木が心材に精油を溜めたもの。仕組みが逆向きです。

沈香は傷の周りに沈着した樹脂、白檀は中心の心材そのもの。香りの在り処が違います。

香りの成分が違います

仕組みが違うので、成分も違います。

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沈香(Aquilaria spp.) 白檀(Santalum album)
科 ジンチョウゲ科 ビャクダン科(根に吸器を持つ半寄生)
香りの在り処 傷ついた木部に沈着した樹脂 成熟した心材の精油
主な成分 テルペン類約31種と、2-(2-フェニルエチル)クロモン類80種以上(Shivanand ら 2022) α-サンタロール 41〜55%、β-サンタロール 16〜24%(ISO 3518:2002。Liu ら 2022 による引用)
成分の性格 材ごとに組み合わせが大きく変わる 二つの成分が大半を占め、規格化できるほど安定

沈香の香りは、セスキテルペン類(炭素15個からできる、樹木の香り成分の一群)と2-(2-フェニルエチル)クロモン類(沈香にとくに多い、加熱で香りを出す一群)という二つのグループの、百種を超える成分の組み合わせです(Shivanand ら 2022)。奇楠(きなん。産地で樹脂の質から呼び分けられてきたとされる沈香の系統で、日本の伽羅とは判定の基準が別のものです)の栽培材でも、香りを特徴づけるのは同じ二つのグループでした(Yang ら 2021)。どの成分がどれだけ入っているかは材ごとに違い、産地や結香の方法によっても変わるとされます。

白檀の香りは、α-サンタロールとβ-サンタロールという二つのセスキテルペンアルコールが主役です。国際規格ISO 3518は、白檀精油のα-サンタロールを41〜55%、β-サンタロールを16〜24%と定めています(Liu ら 2022 による引用)。沈香のように材ごとに成分の組み合わせが入れ替わるものでは、香りの主成分の割合をこうした幅で定めた規格は、当店が調べた範囲では見当たりません(生薬「ジンコウ」の規格が数値で定めているのは、エキス含量などです)。

ただし、規格があることと、市場のものが規格どおりであることは別です。市販の「白檀油」6点を規格と比べた研究では、本物の Santalum album の精油だったのは1点だけで、それもα-サンタロールが不足して規格に届かず、ほかは別種の木の油や合成香料の混合物でした(Kucharska ら 2021)。「白檀」という表示の幅が広いのは、沈香の「天然」という表示の幅が広いのと似た事情です(「天然」の二つの意味についての記事)。

使い方が違います

成分の違いは、そのまま使い方の違いになります。

白檀は、削っただけで香ります。 二つの主成分が常温でも空気中に立ちのぼるため、火を使わない用途が成り立ちます。扇子、数珠、仏像、彫刻。白檀の名前が付いた工芸品が多いのはこのためです。線香や焼香では、甘さと持続の土台として配合の主体になります。

沈香は、温めてはじめて香ります。 多くの成分の組み合わせで香り、温度によって出てくる成分の組み合わせが変わります(香りの仕組みの記事)。手に取ったときにわずかに感じる香りはありますが、焚いたときのようには立ちません。香炉の灰や炭の上、あるいは電子香炉で温めて使います。当店の材では、電子香炉の温度は80〜120℃が目安です。当店の実測では、150℃を超えると焦げた匂いが混じりました(沈香・香木の焚き方の記事)。

同じ電子香炉で二つを焚く場合も、材ごとに適した温度は違います。当店は白檀を扱っていないため、その適温は実測しておらず、ここでは沈香の目安だけを書いています。焼香や線香のように粉にして配合する使い方では、二つはよく一緒に使われています(抹香とは何かの記事)。

写真:白檀の刻と、栽培伽羅の小片(準備中)
左が白檀(参考のための市販品)、右が当店の栽培伽羅。色も木目も、香りの出方も違います。

値段が違います

値段は、条件をそろえて比べます。まず、同じ店、同じ日、同じ「刻」(チップ)の形で、公開されている税込価格を1gあたりに直しました。下の表の上二行の香源の価格がこれにあたります(白檀の行には松栄堂の価格も添えています)。三行目の野生の伽羅と四行目の当店の材は、条件がそろっていないので、桁の感覚をつかむための参考として並べています。

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香木 公開価格(1gあたり・税込) 出典
白檀 刻(松栄堂は老山白檀・インド産) 99円(香源)/275円(松栄堂) 香源オンラインショップ・松栄堂ウェブショップ、2026年8月24日閲覧
沈香 刻(店頭表記は「天然沈香」。インドネシア産タニ、ベトナム産シャムなど) 330〜4,400円 香源オンラインショップ、2026年8月24日閲覧
野生の伽羅 刻・割 26,400〜88,000円 山田松香木店・香源、2026年8月24日閲覧
当店の栽培伽羅 通常品(小片・塊材、100g購入時の単価) 298円(税込・送料込) 当店、2026年8月24日時点

当店の価格は購入量で単価が変わります(5gでは396円/g)。各店の内訳は、価格の定点観測の記事に店名つきで置く予定です。

同じ店の同じ日で、白檀の刻が1gあたり99円、天然沈香(店頭表記)の刻が330〜4,400円。白檀の刻は店と品で99〜275円と幅があります。同じ香源の中で比べると、沈香の刻は白檀の刻のおよそ3倍から44倍です。天然沈香の刻は等級で価格帯が大きく開き、その上には、さらに高い等級もあります。野生の伽羅になると、白檀の刻から数えて桁が二つも三つも上がります。

この差の大きな理由は、仕組みの違いが供給量の差になることです。白檀の心材は、木が年月をかけて育つ過程で形成されます。沈香の樹脂は、傷を受けた木だけが、傷の周りにだけ沈着させます。野生では偶然の傷から、栽培では人が幹に穴を開けて結香させて、ようやくできるものです。供給の限られ方が違えば、値段の桁も変わります。沈香の値段の成り立ちは沈香の値段の記事に書きました。

当店の栽培伽羅は、この表のいちばん下の行です。店も量目も違うので、白檀と並べて高い安いを言うための数字ではありません。当店は、人の手で結香させた沈香の値段を、手に取って、惜しまず焚ける範囲に置いておきたいと思っています。

ワシントン条約での扱いが違います

ここは、他のサイトでよく見かける説明と違うことを書きますので、一次資料を示します。

沈香は、ワシントン条約の附属書IIに掲載されています。 アクイラリア属とギリノプス属の全種が対象で、注釈 #14が付いています。注釈 #14は種子や葉、小売用に包装された完成品などを除外しますが、この除外は木材チップ(wood chips)・ビーズ・数珠・彫刻品には適用されないと明記されています。栽培品も原則として対象です(ワシントン条約の記事)。

白檀(Santalum album)は、附属書に掲載されていません。 経済産業省が公表している附属書(植物界)の日本語版と、EUが条約を域内で実施するために定めた理事会規則の附属書のどちらを検索しても、ビャクダン科(Santalaceae)の項に載っているのは東アフリカ白檀 Osyris lanceolata ただ一種で、しかもアフリカ6か国の個体群に限られています。ビャクダン属(Santalum)の記載はありません(経済産業省「ワシントン条約附属書(植物界)」2026年3月5日時点版、理事会規則 (EC) No 338/97 附属書、いずれも2026年8月23日閲覧)。EUの附属書は、条約の附属書を取り込んだうえで独自の対象を加えたものです。ここに Santalum 属がないことは、条約の附属書にもないことの裏づけになります。

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条約の附属書 備考
沈香(Aquilaria spp.、Gyrinops spp.) 附属書II、注釈 #14 木材チップ・ビーズ・数珠・彫刻品は除外規定の対象外。栽培品も原則として対象
白檀(Santalum album) 掲載なし 産地国の国内法による輸出規制は別にある
東アフリカ白檀(Osyris lanceolata) 附属書II ビャクダン科だが別属。アフリカ6か国の個体群のみ
紫檀・レッドサンダース(Pterocarpus santalinus) 附属書II マメ科。英名がred sandalwoodで、白檀と無関係

「白檀もワシントン条約の対象」という説明が広まっている理由は、おそらく上の表の下二行、東アフリカ白檀と紫檀・レッドサンダースとの混同です。英語でsandalwoodと名の付く掲載種がこの二つあり、どちらも白檀ではありません。

ただし、附属書に載っていないことと、規制がないことは別です。白檀の産地には、国内法で材の輸出を規制している国があり、流通は産地国の法律に従います。この記事が言えるのは、条約の附属書に白檀は載っていない、というところまでです。なお条約の附属書は締約国会議で改正されることがあります。実際に海外へ送る・海外から取り寄せる前には、経済産業省や税関が公表している最新の資料でご確認ください。当店は条文の解釈について責任を負える立場にありません。

白檀は、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで危急(Vulnerable)とされています(2018年評価、2019年公表。個体数は減少傾向。Arunkumar ら 2019)。白檀も無限にある木ではないことを、書き添えておきます。

日本の香りの歴史では

日本でもっともよく知られた香木のひとつが、正倉院の黄熟香(おうじゅくこう)、いわゆる蘭奢待(らんじゃたい)です。宮内庁正倉院事務所の宝物検索は、これを「巨大な沈香」と記しています(正倉院宝物検索、2026年8月23日閲覧)。正倉院展の公式サイトは「ジンチョウゲ科の樹木に樹脂が沈着してできた香木」と説明しています(正倉院展公式サイト、2026年8月23日閲覧)。つまり沈香です。香道の六国(りっこく)は、伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・寸門多羅・佐曽羅の六つで、すべて沈香の呼び分けです。白檀は六国に入っていません。

一方で白檀は、線香や焼香の配合に使われるほか、仏像、扇子、数珠として、火を使わない形でも日本の暮らしに入ってきました。一片を焚いて聞く香の中心は沈香で、火を使わずに香る木の中心は白檀だった、と言えます。

当店は、白檀を扱っていません

当店が扱うのは、栽培伽羅だけです。白檀は売っていませんし、白檀の香りと沈香の香りのどちらが良いかを言う立場でもありません。

この記事を書いたのは、「沈香と白檀の違い」を調べる方が多いのに、木の種類、香りの仕組み、成分、条約の扱いをできるだけ一次資料まで確かめて並べたものが、当店が探した範囲では見つけられなかったからです。白檀に興味を持たれた方は、白檀を専門に扱う香舗でお求めください。沈香のほうに興味を持たれた方には、栽培伽羅とはから読み始めていただけると、当店の材のことが分かります。

参考文献

よくあるご質問

白檀と沈香の違いは何ですか?

木が違います。沈香はジンチョウゲ科アクイラリア属、白檀はビャクダン科ビャクダン属で、科からして別です。香りのできる仕組みも逆で、沈香は傷を受けた木が防御反応で木部に沈着させた樹脂が香り、白檀は健康な木が年月をかけて心材に溜めた精油が香ります。そのため白檀は削っただけで香り、沈香は温めてはじめて香ります。

沈香と白檀はどちらが高いですか?

多くの場合、沈香のほうが高価です。同じ店の同じ日の公開価格で比べると、刻(チップ)の形で白檀が1gあたり99円、沈香(店頭では「天然沈香」と表記されるもの)が330〜4,400円でした(いずれも税込。香源オンラインショップ、2026年8月24日閲覧)。天然沈香の刻の価格帯は幅広く、等級によって上はさらに高くなります。野生の伽羅は、山田松香木店と香源の公開価格で1gあたり26,400〜88,000円でした(2026年8月24日閲覧、税込)。沈香のほうが高い理由は、野生では樹脂の沈着が偶然の傷に依存して供給が限られるのに対し、白檀の心材は健康な木が年月をかけて育つ過程で形成されるからです。当店の栽培伽羅は100g購入時で1gあたり298円(通常品)・598円(沈水選別品)です(いずれも税込・送料込)。

白檀もワシントン条約の対象ですか?

白檀(Santalum album)はワシントン条約の附属書に掲載されていません。「白檀もワシントン条約の対象」という説明を見かけますが、混同されやすいのは、附属書に載っている東アフリカ白檀(Osyris lanceolata、別属)と、紫檀・レッドサンダース(Pterocarpus santalinus、マメ科)で、どちらも白檀とは別の木です。沈香は、アクイラリア属とギリノプス属が附属書IIに掲載されています。なお白檀には、産地国の国内法による輸出規制が別にあります。

白檀は常温でも香りますか?

香ります。白檀の香りの主成分はα-サンタロールとβ-サンタロールで、精油の大半をこの二つが占めます。常温でも香りの成分が空気中に立ちのぼるため、扇子や数珠、仏像など、火を使わない用途が成り立ちます。沈香の香りの成分は常温では揮発しにくく、とくに2-(2-フェニルエチル)クロモン類は加熱で香りを出すため、焚いたときのようには香りません。

沈香と白檀は一緒に焚けますか?

粉にして配合する形なら、一緒に焚けます。焼香や線香では、白檀と沈香を配合したものがよく使われています。白檀が甘さと持続の土台になり、沈香が奥行きを足す組み合わせです。香木片として焚く場合は、材ごとに適した温度が違うため、別々に焚くほうが扱いやすくなります。当店の材は、電子香炉で80〜120℃が目安です。白檀の適温は、当店では実測していません。

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