栽培伽羅
沈香の偽物と見分け方 — 買う前の4つと、届いてからの3つの確認
沈香の偽物とは、樹脂や香りを外から足したり、樹脂が多いように見せかけたりしたものです。油を染み込ませる、圧縮や着色で見た目を変える、別の木に香料を付ける、の三つの型があります。人の手で結香させた栽培品は偽物ではありませんが、同じ呼び名の中に樹脂のよく詰まったものからほとんど乗っていないものまで混在します。見分けるには、売り手の情報開示と、届いてから自分で確かめられることの両面を見ます。
目次
偽物は、大きく三つの型に分けられます
沈香の偽物の共通点は、樹脂や香りを外から足したり、樹脂が多いように見せかけたりしていることです。大きく分ければ、型は三つです。
- 注油・含浸。 樹脂の少ない材や別の木に、油や抽出液を染み込ませて、重さと色と香りを足したもの。
- 圧縮・着色・仕込み。 目方をふやすために、内部に金属の屑などを仕込んだもの。着色して樹脂が多いように見せたもの。高圧で押し固めて比重を上げ、沈水するように見せる手口もあるといわれます。
- 別材+香料。 沈香ではない木に合成香料を付けたもの。当店の見る限り、数珠や彫刻品に多い手口です。
こうした手口は、国際的な調査でも記録されてきました。2000年にまとめられた調査には、灯油や着色した油を染み込ませる、暗い色の木を沈香油に数週間漬けて香りを移す、木に油やタールを注いで黒くしたうえで沈香の香料を含ませる、目方をふやすために鉄屑を混ぜる、といった手口が出てきます(Barden ら 2000。インドや台湾などの市場についての、26年前の調査です。鉄屑については、蒸留に回したときに屑が出てきてはじめて分かることが多い、と書かれています)。近年の論文でも、導入部で注油・含浸、着色、別材への香料の付加という型が紹介され、炭粉・ロジン・抽出液・着色した油・灯油といった違法な添加物が挙げられています(Feng ら 2024)。
ただし、これはあくまで大づかみな分類です。当店の見る限り、市場の偽物は品目も手口も年々増え、作りも巧妙になっています。三つの型に入らない手口もあります——たとえば、有名店の箱や包装だけが本物で、中身が入れ替えられているもの。材そのものには手を加えず、低質の材に「伽羅」など高級な名前だけを付け替えて売るもの。箱も名前も、香木の保証にはなりません。写真だけで細かく見分けるのは、正直なところ、難しくなる一方です。だからこの記事は、写真での鑑定ではなく、売り手に確認できることと、届いてから自分の手で確かめられることを軸にします。
確かな方法の一つとして報告されているのが、顕微鏡での観察です。沈香の木部には介在師部(かいざいしぶ。材内師部とも)という組織があり、本物の沈香ではここに樹脂が自然に、安定して分布しています。
2024年の研究では、真正と確認された20点すべてでこの分布が見られました。市場で集めた18点では、真正の沈香と同じ微細構造を示したのは10点で、そのうち5点は介在師部に樹脂が詰まりきっていませんでした。残る8点は、沈香の微細構造を示しませんでした。樹脂のない沈香樹の材や普通の沈香材を抽出液で90℃・12時間蒸煮し、外から樹脂を含ませた試料では、いずれも介在師部に樹脂は蓄積していませんでした(Feng ら 2024)。ただしこの研究が人為試料として試したのは抽出液で蒸煮したものだけで、高圧での注油や機械的な圧縮は検証の対象に入っていません。
ふつうの家に顕微鏡はありません。この記事では、顕微鏡なしで何を確かめられるかを書きます。
栽培品は、偽物ではありません
その前に、線を引いておきます。人の手で結香させた栽培沈香・栽培伽羅は、偽物ではありません。 木は本物のアクイラリア属で、樹脂は木が自分で分泌したものです。人が与えるのは傷だけで、防御反応として樹脂をつくる仕組みは野生と同じです。偽物との分かれ目は、出自ではなく、樹脂を木がつくったかどうかです。
ただし、「栽培伽羅」という言葉は、作り方の説明であって、品質の等級ではありません。 同じ栽培伽羅の名で流通しているものの中に、樹脂のよく詰まったものから、白木に近いものまで混ざっています。価格にも幅があり、高野山大師堂の公開価格では、栽培伽羅の刻・乱切・細刻みが1gあたり440〜5,500円、角割・乱割まで含めると11,000円までと、等級・形状・量目で桁が変わります(税込、2026年8月24日閲覧・当店調べ、在庫品ベース)。
だから「栽培伽羅を買う」という決め方はできません。どの栽培伽羅かを見る必要があります。以下の7つは、偽物を避けるためにも、栽培品の中で良いものを選ぶためにも、同じように使えます。
買う前に、売り手に確認する4つ
1. 栽培品であることを明示しているか
これが最初の関門です。栽培品とみられる材が、栽培であることを書かずに「天然沈香」「天然伽羅」として売られていたら、その時点で購入を見送るのが安全です。
これは机上の注意ではありません。当店の見る限り、オークションサイトやその他の通販には、栽培品とみられる材が「天然伽羅」「野生の伽羅」として、しかも高値で出ている例がいくつもあります。栽培品であること自体は、何も恥ずかしいことではありません。それを野生と偽って高く売ることが、不誠実なのです。
野生か栽培かを書かずに「天然素材100%」「本物の沈香」とだけ記す書き方も要注意です。栽培品も自然の木から採れたものではありますが、確かめたいのは野生か栽培かのほうです(「天然」という言葉の二つの意味は天然の記事に整理しました)。
2. 産地が特定できるか
「ベトナム産」だけでは情報として足りません。どの地域から来た材なのか、売り手が答えられるかを見てください。
記録の細かさは店それぞれで、すべての商品に管理番号や入荷日が付いている必要はありません。当店も、入荷ごとの管理番号(入荷ロット)を付けているのは一点物の特撰だけです。大事なのは、尋ねたときに産地と入荷のおおよその時期をきちんと答えられるか——それが、売り手が材の来歴をどれだけ把握しているかの目安になります。
3. 重量の書き方が誠実か
一点物なら、「約3g」ではなく「3.2g」という実測値。電子はかりと一緒に写した写真まであれば、大きさも確かめられます。規格の量り売りなら、表示の量目がはっきり書かれているか。ちなみに当店の定番は規格の量目売りで、実測値の記載は一点物の特撰で行っています。定番は、細かな欠けや粉の目減りを見込んで、表示の量目より少し多めに入れてお送りしています。
もうひとつ大事なのは、いつ量ったかです。伐りたての材は水分を含んでいて、時間とともに軽くなります。乾燥・熟成を経てから量ったものでなければ、手元で目減りします。
この基準は当店にもそのまま当てはまります。先に書いておくと、当店の商品写真は現在準備中です。 撮影ができ次第、断面・大きさの目安・計量の三点を各商品ページに掲載します。
4. 加工の工程を説明しているか
当店の材は、人の手で開けた孔の内部に木屑や土が残っていることがあります(当店が仕入れる材での実際の状態です)。売り手が材を洗浄しているか、選別しているか、寝かせているかを見てください。
工程の説明があるかどうかは、売り手の情報開示を測る分かりやすいシグナルです。説明がなければ、買い手の側から確かめる手立てがありません。
当店の工程は加工工程の記事に公開しています。
届いてから、自分で確かめる3つ
5. 断面を見る
樹脂は多くの場合、黒っぽい筋や面として木部に沈着します(樹脂の色が淡い系統もあります)。断面を見て、次の点を確かめてください。
- 筋が全体に走っているか、表面だけか
- 白木の部分がどのくらい残っているか
- 不自然に均一な色をしていないか(着色を疑う)
塊材を買う利点はここにあります。小片や粉末では断面の全体を見られません。
6. 常温で匂いを嗅ぐ
沈香は常温では、焚いたときのようには香りません。樹脂がとくに多い材だと、当店で試した限り、近づけるとかすかに香りが分かることがあります(香りの仕組みの記事)。常温で無臭であること自体には、なんの問題もありません。
また、香木本来のものではない匂い——薬品臭、カビ臭、土くささ——が混じっていないかも確かめてください。洗浄されていない材は、孔の中の汚れが匂います。逆に、常温でも香水のようにはっきり強く香る材は、油や香料を足したものを疑ってよいと思います。沈香は本来、常温ではかすかにしか香らないものです。
7. 火を点けて焚いてみる
当店がいちばん勧める確かめ方は、直接火を点けて焚いてみることです。真贋を見るにも、材や品種の違いを見るにも、これがいちばん分かりやすい。樹脂が十分に乗った材は、ライターの火でそのまま点きます。炎が立ったら吹き消して、くゆる香りを聞いてください。当店の経験では、油や香料を足した偽物は、直火だと香木本来のものではない異臭がはっきり出やすくなります。必ず香炉や灰の上で、換気をしながら行ってください(手順は焚き方の記事)。
電子香炉をお持ちなら、低い温度から試すやり方もあります。当店の実測では、樹脂が多い材は低い温度から香りが立ちます。100℃前後で何も立たず、130〜150℃まで上げてようやくかすかに香る材は、樹脂が少ないと判断しています。150℃を超えると焦げた匂いが混じりはじめるので、判定のためにそれ以上上げる必要はありません(市販機の最低設定は機種によって幅があります。香炉と道具の記事)。
どちらのやり方でも、焦げた匂いが早く出るものは要注意です。
流木は、香木ですか
いまの日本の海岸で拾う流木が沈香であることは、まずありません。それでも、『日本書紀』には推古天皇3年(595年)に淡路島へ「沈水(じんすい)」——のちに沈香と呼ばれる香木——が漂着したという記事があるため、海岸で拾った木が香木ではないかと考える方もいるのだと思います。
これは香木が海路で運ばれていた時代に、東南アジアから流れ着いたと考えられている材の話です。いまの日本の海岸で拾う流木については、事情が違います。沈香は、ジンチョウゲ科アクイラリア属の木が傷を受けて木部に樹脂を沈着させた材で、断面に黒い樹脂の筋が走り、温めると樹脂の香りが立ちます。流木が香るとしても、それは木そのものや付着物の匂いで、温めても樹脂の香りにはなりません。上の5と7——断面と加熱——で確かめれば、区別できます。
値段の見方
極端に安いものを見たら、どの工程が省かれているのかを考えてください。
洗浄設備、選別の手間、乾燥と熟成(当店ではおよそ一年)、そのあいだの倉庫代と、資金を寝かせること——これらは全部コストです。採ってすぐ売れば不要になります。
安いこと自体は悪くありません。ただ、安さの理由が説明できる店かどうかは見てください。値段の成り立ちは沈香の値段の記事に書きました。
迷ったら、少量から
香木は、焚いてみないと分かりません。
はじめての店でまとまった量を買う必要はありません。当店も少量のお試しセットを用意しています。他店で買う場合も、まず少量から試すことをおすすめします。
参考文献
- 『日本書紀』巻第二十二 推古天皇三年四月条(沈水の淡路島漂着の記事)
- Feng et al., 2024. Resinous included phloem as a key indicator of authentic or fake agarwood. PLOS ONE 19(12): e0312102. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0312102
- Barden et al., 2000. Heart of the Matter: Agarwood Use and Trade and CITES Implementation for Aquilaria malaccensis. TRAFFIC International(2026年9月2日閲覧). https://www.traffic.org/site/assets/files/9731/agarwood-use-and-trade-and-cites-implementation.pdf
- 高野山大師堂 伽羅カテゴリおよび伽羅(栽培伽羅)佳品・上品・極上品 各商品ページ(2026年8月24日閲覧の公開価格). https://www.koyasandaisido.jp/product-list/6 / https://www.koyasandaisido.jp/product/431 / https://www.koyasandaisido.jp/product/488 / https://www.koyasandaisido.jp/product/214 / https://www.koyasandaisido.jp/product/288 / https://www.koyasandaisido.jp/product/287
- Wang et al., 2021. Aquilaria Species (Thymelaeaceae) Distribution, Volatile and Non-Volatile Phytochemicals, Pharmacological Uses, Agarwood Grading System, and Induction Methods. Molecules 26(24): 7708. https://doi.org/10.3390/molecules26247708
- Chen et al., 2025. An efficient harvesting strategy for agarwood based on the correlation analysis of resin formation and leaves dynamic changes induced by integrated induction method(誘導剤として過酸化水素・ジャスモン酸メチル・サリチル酸・ギ酸). PLOS ONE 20(7): e0327516. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0327516
- Forest Products Laboratory, 1999. Air Drying of Lumber, FPL-GTR-117. https://doi.org/10.2737/fpl-gtr-117
よくあるご質問
香木の本物と偽物の見分け方は?
学術的な確かめ方の一つに顕微鏡での観察があり、本物の沈香は木部の介在師部という組織に樹脂が自然に分布しています。家でできるのは、断面に樹脂の筋が奥まで走っているか(不自然に均一な色は着色を疑います)、常温で薬品臭など香木本来のものではない匂いがしないか、火を点けて焚いたときに香木本来の香りが素直に立つか(油や香料を足した偽物は直火で異臭が出やすい)、の三つです。それに加えて、売り手が栽培品かどうか・産地・重量の書き方・加工工程を開示しているかを見てください。
流木が香木かどうか見分けられますか?
海岸の流木が沈香であることは、まずありません。沈香はジンチョウゲ科アクイラリア属の木が傷を受けて樹脂を沈着させた材で、断面に黒い樹脂の筋が走り、温めると樹脂の香りが立ちます。流木が香るとしても、それは木そのものや付着物の匂いです。断面と加熱で確かめれば区別できます。
安すぎる栽培伽羅は偽物ですか?
偽物とは限りませんが、どの工程が省かれているかを考える必要があります。洗浄、選別、熟成——どの工程を省いてもコストは下がります。価格だけでなく、売り手が工程を説明しているかを見てください。
薬剤を注入したものが混ざっていると聞きました。
結香を促すために薬剤(ギ酸や過酸化水素など)を使う手法は実在し、研究論文でも報告されています。禁じられた手法ではありませんが、開示されるべき情報です。当店の材は、幹に穴を開ける打眼(だがん)だけで、薬剤を注入した材は扱っていません。焚いたときに香木本来のものではない匂いが混じる場合は疑ってよいと思います。
現物を見ずにネットで買って大丈夫ですか?
情報を出している売り手なら判断材料はあります。逆に、産地しか書いていない、重量が「約」だけ、写真が使い回し——こうした店は避けたほうが無難です。少量のお試しから始めるのが安全です。
沈水すれば良い香木ですか?
いいえ、それだけでは決まりません。沈水は、手を加えていない材なら、水より重くなるほど樹脂が詰まっていることの証しで、品質を判断する材料の一つにはなりますが、香りの質までは保証しません。当店も等級分けの基準として使いつつ、香りと合わせて判断しています。沈水かどうかだけでなく、香りについての説明があるかを見てください。