香木の基礎

抹香とは何か — 焼香との違いと、樒の抹香・香木の抹香

「焼香」は、辞書では香を焚いて拝む行為を指す言葉ですが、日本の仏事の現場では、白檀や沈香に桂皮・大茴香などを配合した粉末そのものも「焼香」と呼ばれます。「抹香」は焼香のときに炭の上に撒く粉末香のことで、古くは沈香や栴檀(白檀)などの粉末を指し、いまは樒(しきみ)の葉や皮の粉を指すのが一般的です。沈香・白檀などを調合した粉を抹香と呼ぶ店もあります。沈香そのものは、これらを調合するための香原料のひとつであり、単体で焚くこともできます。

目次

三つの言葉が混ざっている

お寺や香舗の方とお話ししていると、この三つがよく混ざります。

抹香(まっこう)、焼香(しょうこう)、沈香(じんこう)。

沈香は原料、抹香は使われ方、焼香は配合を指す言葉です。

日常の会話では全部「お焼香」で済んでしまうので、混ざっても普通は困りません。ただ、材料を仕入れる段になると、区別しないと話が通じません。整理しておきます。

抹香

焼香のときに、香炉の炭の上に撒く粉末の香です。古くは沈香や栴檀(白檀)などの粉末を指し、いまは樒(しきみ)の葉や皮を乾燥させて粉にしたものを指すのが一般的です(デジタル大辞泉)。沈香・白檀などを調合した粉を抹香と呼ぶ店もあります。

樒はマツブサ科(かつてはシキミ科に分類されていました)の常緑樹で、香木ではありません。日本の仏事に古くから使われてきた植物です。焼香台の香合に入っていて、指でつまんで香炉の炭の上に落とす、あの粉が抹香です。中身が樒だけとは限りません。

樒の抹香は安価で、量を気にせず使えます。大人数の法要を考えると、理にかなった材料です。寺院用仏具の老舗は、樒の粉を抹香と呼び、炭の上に撒くほかに、常香盤に押し固めて長時間焚く方法や、焼香の火種にする方法も挙げています(若林佛具製作所、2026年8月23日閲覧)。樒のほかに、椨(たぶのき)の樹皮を挽いた粉だけでつくられた抹香もあります。

つまり「抹香」には二つの系統があります。樒の葉や樹皮、椨の樹皮など、香木でない原料を挽いた粉である樒系の抹香と、沈香や白檀を主体に配合した粉末で、次に書く「焼香」と中身が重なる香木系の抹香です。どちらも炭の上に撒く使い方は同じで、違うのは原料と、粒と、値段です。

なお、香舗によっては、刻みの焼香をさらに細かく粉末にしたものを抹香と呼んでいます(日本香堂「香の種類」)。呼び方は店によって異なります。

写真:樒系の抹香、配合された焼香、沈香の粉末——粒と色の違い(準備中)
左から樒系の抹香、配合された焼香、沈香の粉末。同じ「撒く粉」でも、粒も色も違います。

なお、同じ粉末でも、火を点けず手や身体に塗って清めるものは塗香(ずこう)と呼び、抹香とは別のものです。当店の粉末は、塗香としてのご使用を想定していません。

焼香 — 本来は行為、いまは商品名でもある

まず言葉の整理から。辞書での焼香は「香をたくこと。特に、仏や死者に対して香をたいて拝むこと」——つまり行為の名前です(デジタル大辞泉)。ところが仏具店や香舗の売り場では、白檀・沈香などを配合した粉末そのものが「焼香」の名で並んでいます。行為の名前が、そのまま商品の名前になっている——ここが、抹香と焼香の話が混ざるいちばんの理由だと思います。

こちらは配合品です。

白檀や沈香といった香木を主体に、桂皮(シナモン)、大茴香(八角)、丁子(クローブ)など複数の香原料を細かく刻んで混ぜ合わせたもの。仏具店で「三種香」「五種香」の名で売られているのがこれです。

配合の比率は店ごとに違い、そこが個性になっています。沈香を多く使ったものは高価になります。

沈香そのものを買っても、商品としての「焼香」(配合品)にはなりません。 商品としての焼香は複数の香原料を調合したもので、沈香はその原料のひとつです。一方、行為としての焼香に、配合品ではなく沈香を単体で使うことはできます(後述します)。

ちなみに、香料の粉を椨粉などでまとめて棒状に成形したものが線香です。使う香料は重なりますが、配合も用途も異なる、別の製品です。

値段で見る、樒系と香木系の違い

違いは、値段にはっきり出ます。寺院用仏具の老舗では、椨粉100%の抹香が500gで1,045円、1gあたり2.1円です(若林佛具製作所、2026年8月23日閲覧、税込)。香舗の老舗の公開価格(松栄堂ウェブショップ、2026年8月23日閲覧、税込)では、いちばん安い抹香「唐抹香」が500g詰で1,650円、1gあたり3.3円。同じ店の焼香は、500g詰で「玄妙五種香」4,400円(8.8円/g)から「十種香 法悦」132,000円(264円/g)まで、約30倍の幅があります。配合に使う香木の量と質で、同じ「撒く粉」でも値段の桁が変わります。

自宅の法要なら、500gの徳用は要りません。香舗のオンラインショップには、100円台から2,000円弱のお試しサイズが並んでいます(香源オンラインショップ、2026年8月23日閲覧、税込)。道具と手順は自宅で焼香をするにはに書きました。

沈香(香木としての)

ジンチョウゲ科の樹木に樹脂が沈着した木部です。当店が扱うのは、その栽培品です。

香木を扱う世界では、用途によって形が呼び分けられています。以下でいう聞香(もんこう)は、銀葉(ぎんよう=雲母の薄い板)を隔てて香木を温め、小さな一片の香りを聞く、香道の聞き方です。

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形 主な用途
分割(角割)・細割 聞香。香道で銀葉に載せる
刻み 焼香、匂い袋の中身
粉末 練香・線香・印香の原料
塊材 自分で削って使う。原料としての在庫

当店の定番は小片・塊材・粉末の三つの形です。小片は市場でいう刻みに近い大きさですが、調合用の呼び名と紛れないよう、当店では小片と呼んでいます。聞香用の分割は扱っていません。当店の材は、樹脂の量の点でも値段の点でも一片ずつ惜しむ必要がなく、当店で試した限り、銀葉ごしの穏やかな熱より直接温めたほうが香りをよく出せるためです。

写真:小片・塊材・粉末の三つの形を並べたところ(準備中)
左から小片、塊材、粉末。当店の定番はこの三つの形です。

沈香をそのまま焚く場合

配合せず、沈香だけを焚くこともできます。というより、当店がふだん勧めているのはそちらです。

熾した炭の上に小片をひとつまみ載せるか、灰の上に置いて直接火を点けるか。それだけです。配合品より香りは単一になりますが、その材が持っているものがそのまま出ます。

炭や直火で焚くときは、焚いている間と、焚き終わったあともしばらく換気を続けてください。炭は燃えているあいだ一酸化炭素を出すので、閉め切った部屋で長く焚かないでください。火が消えるまでそばを離れず、お子さまやペットの手の届かない所で焚いてください。

電子香炉を使う場合は、当店の材では80〜120℃が目安です。150℃を超えると、当店の実測では焦げた匂いが混じりやすくなります。木部の主成分であるヘミセルロースの熱分解は主に220〜315℃、セルロースは315〜400℃で起きるので(Yang ら 2007)、150℃を超えたあたりで感じる焦げた匂いは、樹脂・抽出成分や、160℃あたりからゆるやかに分解しはじめるリグニンに由来するものだと考えています。詳しくは沈香・香木の焚き方に書きました。

なお、香道の聞香は、当店の通常品ではあまり勧めていません。当店で試した限り、銀葉ごしの穏やかな熱では木の匂いなどの雑味が相対的に目立ちやすいためです。樹脂が十分に乗った特撰クラスの材なら、聞香でも楽しめると考えています。

作法については、お寺に聞いてください

焼香の回数や所作は宗派によって違います。一回の宗派もあれば三回の宗派もあり、額に押しいただくかどうかも分かれます。

そこは当店の領分ではありません。菩提寺にお尋ねください。当店がお答えできるのは、何を焚くか、という材料の話までです。

原料としての仕入れについて

配合用の原料をお探しの寺院様や、まとまった量をお使いになる方には、小片・塊材・粉末のいずれも、1kg以上・kg単位でご相談を承っています。500gまでの量目は、販売再開後にオンラインストアの通常価格でお求めいただけます。販売再開の時期が決まり次第、各商品ページでお知らせします。再開のお知らせをご希望の方は、お問い合わせフォームで「販売再開のお知らせ希望」をお選びください。

原料としてお出しするのはすべて栽培伽羅で、野生の沈香ではありません。通常品は100gで298円/g、500gで約270円/g、粉末は100gで228円/gです(いずれも税込)。上に挙げたのは製品としての抹香・焼香の価格で、当店がお出しするのは調合前の香原料です。同じ1gあたりでも中身が違うため、単純に比べられるものではありません。1kg以上のご相談では別途お見積りします。

粉末は通常品のみの扱いです。塊材を切り分けるときに出た同じ材の粉ですので、どの母材から出た粉かが特定できます。

条件とご相談の流れはまとめ買い・寺院様へのご案内にまとめました。まずお試しセットで等級と形を確かめていただいてからのほうが、話が早いと思います。

参考文献

よくあるご質問

抹香とは何ですか?

焼香のときに、香炉の炭の上に撒く粉末の香です。いま一般には樒(しきみ)の葉や皮を乾燥させて粉にしたものを指し、寺院用仏具の老舗も樒や椨の粉を抹香と呼んでいます。沈香や白檀などを調合した粉末も抹香と呼ばれ、どちらも炭の上に撒く使い方は同じです。火を点けず身体に塗る塗香とは別のものです。

抹香の値段はいくらですか?

香木を主体としない抹香は、老舗の公開価格で椨粉100%のものが500gで1,045円(2.1円/g。若林佛具製作所、2026年8月23日閲覧、税込)、「唐抹香」が500gで1,650円(3.3円/g。松栄堂ウェブショップ、2026年8月23日閲覧、税込)です。白檀や沈香を配合した焼香は、松栄堂では500gで4,400円から132,000円、1gあたり8.8円から264円と、配合に使う香木の量と質で30倍の幅があります(同日閲覧、税込)。沈香の材そのものの粉末は、当店の栽培伽羅 粉末で1gあたり228円(100g購入時、税込)です。

焼香と抹香は違うものですか?

言葉の軸が違います。抹香は粉末の香という「物」の名前で、いまは樒(しきみ)の葉や皮の粉を指すことが多く、沈香・白檀などを配合した粉末も含みます。焼香は辞書では香を焚いて拝む「行為」の名前ですが、現場では配合された粉末そのものも焼香と呼ばれます。厳密な線引きより、行為か物かという軸で覚えるのが早いと思います。

沈香をそのまま焼香として使えますか?

使えます。焼香という行為に、配合品の代わりに沈香を単体で使う、ということです。熾した香炭の上に、ひとつまみ載せるだけです。小片なら灰の上で直接火を点けても焚けます。配合された焼香より香りは単一になりますが、材の性格がそのまま出ます。当店の小片や粉末をこの用途でお使いの方もいらっしゃいます。

配合用の原料として沈香を仕入れられますか?

承っています。500gまでの量目は、販売再開後にオンラインストア(STORES)の通常価格でお求めいただけます。販売再開の時期が決まり次第、各商品ページでお知らせします。再開のお知らせをご希望の方は、お問い合わせフォームで「販売再開のお知らせ希望」をお選びください。1kg以上のまとまった量は、「まとめ買い・寺院様へのご案内」ページのフォームからご相談ください。等級は通常品と沈水選別品の二つ、粉末は通常品のみのご用意です。

焼香の作法は宗派で違いますか?

違います。回数や所作は宗派ごとに定まっているので、そちらは菩提寺にお尋ねください。当店がお答えできるのは材料の話までです。

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