当店について
「天然」という言葉について — 当店での使い方を決めました
香木の市場で「天然」という言葉は、野生(山で自然に結香したもの)という意味と、本物・無添加(材が本物の沈香木で、着色や注油などの加工をしていない)という意味の、二つで使われています。同じ言葉が別のものを指すため、売り手と買い手のあいだで認識がずれやすい言葉です。
同じ言葉が、二つのものを指しています
香木を探していると、「天然沈香」「天然香木」という表示をよく見かけます。この「天然」が何を意味しているかは、売り手によって違います。
一つめの意味は、野生。 山の中の沈香樹が、台風や虫害で偶然傷つき、誰にも管理されずに何十年もかけて樹脂を溜めたもの。伝統的な香木の世界で「天然伽羅」と言うときの天然は、こちらです。
二つめの意味は、本物・無添加。 材が本物の沈香木であり、着色も注油も圧縮もしていない、という意味です。線香の業界で「天然香料」と言うときの天然(合成香料ではない、という意味)に近い使い方で、フリマアプリやネット通販の香木でよく見られます。
どちらの使い方にも、それぞれの文脈があります。問題は、読む側がどちらの意味か分からないことです。
買う側が本当に警戒しているもの
「天然かどうか」という質問の裏にあるのは、たいてい偽和への警戒です。
香木の市場には、樹脂の少ない材に油を染み込ませたもの、圧縮して比重を上げたもの、着色したもの、合成香料で香りを付けたものが実際に流通しています。沈水の記事で書いたとおり、偽装の技術は年々巧妙になっています。
つまり買う側が確かめたいのは、「山で採れたか」よりもまず、**「この材に、何か足されていないか」**です。二つめの意味の「天然」は、この不安に答えようとして使われている言葉だと思います。
当店の香木は、どちらなのか
正直に整理します。
野生ではありません。 海南島と広東の提携生産者が植えた木に、打眼で結香させた栽培品です。ここはサイト中で繰り返し書いてきたとおりです。
本物・無添加ではあります。 材は本物のアクイラリア属の木で、樹脂は木が自分で分泌したものです。孔を開けるのは人の手ですが、樹脂を作るのは木自身で、これは野生でも起きる防御反応と同じ仕組みです。そして当店は、着色・注油・圧縮・合成香料の添加を一切していません。 工程にあるのは洗浄・切断・選別・乾燥・熟成という物理的な作業だけです。
ですから「栽培品は天然ではない」と言われれば、半分は当たっていて、半分は違います。
それでも、当店は「天然」と書かないことにしました
二つめの意味では天然、一つめの意味では天然ではない——こういう言葉を商品に付けると、読む人の半分は誤解します。誤解する余地のある言葉は、良い方に誤解されたとき、いちばん高くつきます。
そこで当店は、言葉の使い方をこう決めました。
出自は「栽培」、加工は「無添加」、と分けて書けば、「天然」という言葉に二つの仕事をさせずに済みます。市場の慣行より一段厳しい線ですが、言葉を一つ手放す代わりに、誤解の余地を消せます。
買う側への提案
他店で「天然」表示を見たときは、どちらの意味かを確かめることをおすすめします。聞き方は簡単です。
「野生品ですか、栽培品ですか」と、「着色・注油・圧縮・香料の添加はしていませんか」。
この二つは別の質問です。両方に明確に答えられる売り手なら、どちらの意味で「天然」と書いていても、実態は開示されています。答えがあいまいなら、見分け方の記事に書いた確認事項を順に当てていってください。
言葉は市場によって揺れますが、質問を分ければ、実態は確かめられます。
よくあるご質問
栽培品は「天然」ではないのですか?
意味によります。木は本物のアクイラリア属で、樹脂は木が自分で分泌したもの、加工も無添加——この意味では天然です。ただし山で自然に結香した野生品ではありません。当店は誤解を避けるため、自分の商品に「天然」という言葉を単独では使わず、「栽培」と「無添加」を分けて書いています。
「天然沈香」と書いてある商品は野生品ですか?
確かめないと分かりません。野生品の意味で使う売り手と、本物・無添加の意味で使う売り手の両方が実際にいます。野生品なら産地と入手経路を、無添加の意味なら何を加工していないのかを、売り手に確認するのが確実です。
当店の香木は何を「していない」のですか?
着色、注油、圧縮、合成香料の添加です。材は栽培沈香そのもので、洗浄・切断・選別・乾燥・熟成という物理的な工程だけを経ています。樹脂を足すことも、香りを足すこともしていません。
結香は人工なのに、樹脂は天然と言えるのですか?
孔を開けるのは人の手ですが、樹脂を分泌するのは木自身です。傷に対する防御反応という、野生でも起きる仕組みがそのまま働いています。人が作った樹脂を注入しているわけではありません。この区別が、栽培沈香と偽和品の分かれ目だと考えています。