栽培伽羅

栽培伽羅の品種 — 香りは品種が、値段は樹脂が決める

香木の品種とは、栽培沈香で母樹から接ぎ木によって受け継がれる系統のことです。実生ではなく接ぎ木で殖やすため、母樹の性質がそのまま固定されます。香りの傾向は品種が決め、値段は樹脂の乗り方が決める——この二つの軸は、別のものです。

品種という言葉が、栽培伽羅では意味を持ちます

野生の沈香に「品種」という言い方は、あまり馴染みません。山の中の木が偶然傷ついて樹脂を溜めたものですから、系統を管理しようがない。

栽培伽羅は違います。

産地の農園では、実生の白木香に、母樹(ぼじゅ=野外で生き残っていた野生の伽羅の原木を農園に移植したもので、栽培する木に接ぎ木の穂木を提供する親木)から穂木を取って接ぎ木します。接いだ枝は母樹の性質をそのまま持っているので、系統が固定されます。だから「この木は◯◯という品種だ」と言えるわけです。

結香 — 栽培沈香は、どうやって香りを持つのか

品種名は、その母樹の名前です。苗木の市場には張勺子(チャンシャオズ)、透頂緑、大葉婆といった名が数多くあり、葉の形や大きさで見分けられるとされます。由来は母樹が見つかった場所であったり、葉の特徴であったりと、まちまちです。産業としての沈香の主産地は中国とベトナムで、品種名もその流通の中で付いてきました。

栽培伽羅の4つの品種(YYZ・AS・RH・XGY)の葉の比較写真。系統ごとに葉の形と色が異なる
市場に流通する栽培伽羅4品種の葉。系統によって形も色つやも違うのが分かります。研究の世界でも、系統の見分けにはまず葉が使われています。図版: Li et al. 2025, PLOS ONE 20(7): e0327514 (CC BY 4.0) の Fig 1 より葉の部分を切り出し

香りの系統としては、白油伽羅緑油伽羅の二つが大きな分かれ目とされています。白油伽羅は立ち上がりが軽やかで、涼・蜜・乳・花・果と変化していく。緑油伽羅は熟香系で、甘く柔らかい。ただしこれは傾向の話です。同じ白油伽羅でも、母樹が違えば香りは変わります。なお「緑油伽羅」という名は、野生の伽羅の最上級を指す流通名としても使われています。ここでの白油・緑油は、あくまで栽培品の香りの系統を指す呼び分けです。

産地でのこの系統の呼び名については、奇楠(きなん)とは?で解説しています。

高産品種と低産品種 — 産地が品種をどう分けているか

ここからが、日本語ではあまり書かれていない話だと思います。

産地では品種を、高産品種低産品種に分けて考えます。この差は、母樹の品種そのものに由来します。同じ期間、同じ手間をかけても、密度の高い樹脂を乗せられる品種と、そうでない品種があるのです。

高産品種は、短い期間で密度の高い樹脂が多く採れます。一本の木から数百グラムの栽培伽羅が採れることもあります。歩留まりがいいので、苗木も安い。

ただ、香りが付いてきません。樹脂が短期間で固まるためか、香りに厚みが出なかったり、単調に終わったり、ゴムやタールを思わせる雑味が強く出たりします。それで、採れた材の値も安くなります。

そして、この差は写真では見分けられません。 断面の油はよく回って見えるし、水に入れれば沈む。だから市場では、高産品種のほうが選ばれやすいのです。

低産品種はその逆です。樹脂はなかなか乗らず、結香も遅い。同じ手間をかけて採れる量はずっと少ない。そのかわり、焚いたときの香りに変化と奥行きが出ます。

当店が使っているのは、一貫して低産品種です。そのうえで、低産品種のまま収量を引き上げる工夫——結香のさせ方や育て方の改良——は、産地と一緒に続けています。

ひとつ付け加えると、当店がお売りする材はすべて、雑味が少ないこと・香りが良いこと・樹脂が十分に乗っていることの三つが揃うように、仕入れの段階で確かめています。産地とともに数多くの品種を集めて選び、長い栽培試験を重ねてきたから、この線引きができます。

当店は以前から、沈水は樹脂が詰まっていることの証しであって、それだけで香りの質までは決まらない、と書いてきました。理屈の話として書いてきましたが、産地の側から見れば、もっと単純な事実です。安く沈む品種が実在する以上、「沈水=高品質」という等式は成り立ちません。

沈水すれば良い香木なのか

糖結 — 油は良い、沈む、安い、香りが良くない

具体例をひとつ挙げます。仕入れの現場で実際に使われている呼び名です。

糖結(とうけつ)。高産品種の代表格です。

油の乗りは非常に良い。断面を見れば樹脂がよく回っているのが分かりますし、水に入れれば簡単に沈みます。育つのも早く、産地での値も安い。

ただ、香りが良くありません。

焚くと、沈香らしい香りはわずかに感じられる程度で、あとはタールを思わせるような雑味が勝ちます。良い香木が持っているはずの品の良さが、どうしても出てこない。

当店は、仕入れで糖結を一度も選んだことがありません。

見せられたことは何度もあります。数字だけ並べれば、これほど売りやすい材はないと思います。沈む。油が乗って見える。原価が安い。沈水選別品として出せば、利幅は当店が扱っているどの材よりも大きくなります。

それでも取らないのは、当店が毎回の仕入れを香り・結香の速さ・最終的な樹脂量の三つで判定していて、その中で香りをいちばん上に置いているからです。

「糖結」という呼び名は、産地でも文脈によって指すものが変わります。ここで書いているのは品種としての糖結で、当店が実際に見てきたものの話です。同じ字が樹脂の質感を表す語として使われることもあり、そちらは別の意味になります。材を見るときは、売り手がどちらの意味で言っているのかを確かめたほうが確実です。

当店の産地は二つあって、役割が違います

当店は海南島と広東の二か所から材を引いています。仕入れ先を分散させているのではなく、役割が違うから二つあります。

海南島 — 量産の基地

海南島の提携農園は、量産です。性質の安定した品種を、まとまった面積で、継続して育てています。

定番の香木は、すべてここから来ています。等級を通常品と沈水選別品の二つだけにしているのは、量産の材をまとめて分けているからです。品種はあえて一つに絞らず、沈むかどうかという客観的な線で二つに割ったうえで、等級ごとに香りの違う低産品種を配合してバランスを取ります。それ以上の細かい線を、当店は引けません。

定番の香木を見る

広東 — 育種の基地

広東の提携先は、性格が違います。ここは育種基地で、新しい品種を試験的に育てている場所です。拠点は一か所ではなく、海辺、丘、平地と、環境の違う場所に分かれています。

母樹を集め、接ぎ木や取り木(枝を親木に付けたまま発根させる殖やし方)で育て、結香させて、焚いてみる。それを繰り返しています。当然、期待どおりにならない母樹も出ます。

母樹の豊富さは、たぶん想像を超えています。記録に残っている品種だけで、千を超えると言われます。その中から、香りと収量の釣り合いが取れたものを見つけ出すのは、簡単なことではありません。

そして、たまに面白いものが出ます。

その中で良く育ったものが、当店の特撰品の中心になります。 量産ではないので、まとまった数は出ません。同じ品種でも、次の入荷ロットが同じ性質になるとは限らない。特撰の入荷が不定期で、再入荷をお約束できないのは、そういう事情です。

特撰の香木を見る

買う側は、品種名をどう扱えばいいか

実際に買うときの話をします。

品種名は、香りの保証ではありません。

品種は、香りの傾向を決めます。ただしそこに、どこで育ったか、何年育てたか、どう結香させたか、採ってからどのくらい・どんな環境で寝かせたかが全部乗ります。同じ品種でも、出来上がるものは同じになりません。

ですから品種名は、順位ではなく、「そういう血統です」という情報として受け取るのがちょうどいいと思っています。

当店の書き方も、それに合わせています。

特撰品には、品種番号と当店での呼び名を書きます。 「1号品種(白油伽羅)」のような書き方です。元の品種名そのものは、名前だけが独り歩きするのを避けるため、公開していません。そのかわり、どこで育てたか、どう結香させたか、採ってからどう寝かせたかを、番号ごとに書き添えていきます。

定番品には品種名を書きません。 量産の材を等級で分けたうえで、香りの違う複数の低産品種を配合して、全体の香りを整えているからです。単一の品種名では言い切れません。

よくあるご質問

栽培伽羅に「品種」があるのはなぜですか?

実生ではなく、母樹から穂木を取って接ぎ木で殖やすからです。接いだ枝は母樹の性質をそのまま受け継ぐので、系統が固定されます。品種名は、その母樹に由来します。

高産品種と低産品種はどう違いますか?

母樹の品種そのものの違いです。同じ期間・同じ手間でも、樹脂の乗り方は品種で大きく変わります。高産品種は短い期間で密度の高い樹脂が多く採れ、一本の木から数百グラム採れることもあります。そのぶん苗も材も安く、香りは単調になりがちです。低産品種は量が出ず結香も遅いかわりに、香りに変化と奥行きが出ます。当店が使っているのは低産品種です。

「糖結」の香木は買わないほうがいいのですか?

当店は仕入れたことがありません。高産品種の代表格で、油はよく乗り簡単に沈水しますが、焚くと沈香らしい香りはわずかで、あとはタールを思わせる雑味が勝ち、品の良さに欠けるためです。当店は毎回の仕入れを香り・結香の速さ・最終的な樹脂量で判定していて、香りをいちばん上に置いています。なお「糖結」という語は文脈によって指すものが変わります。売り手がどの意味で使っているかは確かめたほうが確実です。

商品ページに品種名が書かれていないものがあります。

定番(海南島産)は、量産の材を等級で分けたうえで、香りの違う複数の低産品種を配合してバランスを取っているため、単一の品種名では言い切れません。特撰品には品種番号と当店での呼び名を記載しますが、元の品種名は公開していません。書いていないことと品質の高低は関係ありません。

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